シングルセルゲノム解析で、未知なる微生物の可能性を解き放つ/bitBiome株式会社 【3】

【第3回】

さまざまな立場のメンバーをどうチーム化するか

―第3回は、CEOとしての藤岡さんのご経験や役割を中心にお伺いしたいと思います。御社ではアカデミアや、研究員、ビジネスサイドなどバックグラウンドの異なるメンバーと理想的なチームを形成できていると思いますが、どのような工夫をされてきたのでしょうか。

大きくは2つあると思います。1つは向かうべき方向性、何を目的とし、何を達成するか、を、チーム全体でクリアにアライン(同じ方向を向く、次の行動などについての認識を共有する)したことです。もう1つは密なコミュニケーションというシンプルなことです。これは後ほど詳しくお話します。

1つ目の向かうべき方向性や目標は、bitBiomeの組織全体としてミッション、ビジョン、バリューをきちんと定義づけています。

ミッションはUnlock the Potential of Microbes。まだまだ資源として未知なる可能性を非常に多く秘めた微生物の可能性を解き放っていこう、というものです。その下にビジョンとして、目指す世界があります。私たちの技術がプラットフォームとなり、さまざまな科学発見や知が爆発的に生み出されて、それがどんどん積み重なって、医療や産業資源への応用につながっていくことです。

この共通認識があることで、研究開発チーム、ビズデブのチーム、経営陣の各メンバーが同じ方向を見て議論ができるようになりました。例えば顧客に対して、どういうデータを提示するか、何がバリューになるか。自分たちにとっては組織の成長や案件につながるかどうか。もちろん、細かいところでは意見の調整やすり合わせが必要なこともありますが、大本に立ち返ったときに、「それはやろう。なぜなら…」というところでアラインできています。信頼関係を元に、全員で手にした成功事例が積み重なっていくと、満足度も高まっていきますね。

―経営陣の3人の結束力もすばらしいですね。

CSOの細川、COOの佐藤、そしてCEOの私という経営のハンドルを握る3人を、弊社ではリーダーシップチームと位置づけているのですが、皆30代半ばで、同じ使命感や経験を共有してきており、スキルもウイルもあるメンバーがそろったのはラッキーなことだったと思います。大事な意思決定を常に一枚岩で進めていくことで、組織が分断されることはありません。と言っても、キャラクターや能力は三者三様です。私は実は、計画を立てて仕事を進めるのは苦手な方で、ビジョンを描き、情熱でみんなを引っ張っていくタイプだと思います。ロジカルに物事を進めていくというのは佐藤が上手ですね。

―密なコミュニケーションはどのような感じで行われるのですか。また議論の仕方で工夫しているところがあれば教えてください。

私たち3人は、業務やメンバーとのミーティングなど何かしら毎日必ずコミュニケーションをとっています。3人だけのミーティングは、少なくとも週1回はしっかりと時間を設けています。資金調達、今後の組織体制、大型で重要なビジネスの案件など、会社の将来をうらなうような論点や経営上の問題は、必ず3人揃ってディスカッションを重ね、アラインをとります。今はミッションなどの大枠があるのでぶれにくいですが、私たちはそれを作る前からも、1つ1つの案件で、事前準備、ミーティングとデリバリー、そのあとどういう形で進めていくか、常に一丸となって密な議論をしながら進めてきました。ベンチャー企業では毎週毎週、本当にジェットコースターのようにいろいろなことが起こりますので、お互いが理解、納得いくまで話し合うことを徹底することが大切だと思っています。

資金調達は体験して初めて学ぶことが多かった

―今はちょうど資金調達も佳境に入っており大変お忙しい時期だと伺っております。

いろいろなことが同時に起きて、強烈に忙しいですね。資金調達については会社としては2回目の調達に入ります。昨年の1月、UTECさんから3.5億円の調達をしました。これをシリーズAラウンドとしますと、現在進めているのはシリーズBラウンドとなります

*インタビュー時。2020年8月、シリーズBラウンドにおいて東京⼤学エッジキャピタルパートナーズ、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーターを含む複数企業(既存・新規)からの総額7億円の資金調達を実施した。

―資金調達はベンチャーのCEOならば必ず通る関門ですね。ここまでの道のりで、今思えばこうしておけばよかった、ということがあれば教えてください。

出回っている情報に最低限目は通しましたが、資金調達とは実際のところどういうプロセスで、どういう落とし穴に気を付けないといけないか、ということが、知識としてではなく心の底からもっとわかっていたらよかったかもしれません。例えばどういう方がVCのプレーヤーなのか、どのようなコミュニケーションをするとよいのか。VCが気にするポイントや、意思決定のポイントに、しっかりと届くプレゼンや、資料の作り方、提供データが必ずあったと思っています。

ただ大前提として、あらかじめそういったポイントを押さえていれば効率的にできていたかというと、そうでもないという気もして。わかったところで座学と実地の体験は違うんです。すごく有望かつ前向きに一緒に進めていたVCから、「出資には至りませんでした」と最後の最後で掌を返されるようなことも、何度も体験しました。

―具体的な成果やデータが整いきっていないなかで資金調達をしないといけない、厳しい世界ですよね。体験でしかわからないということは承知の上、その中でも資金調達を前に進めるポイントを教えてください。

仮説ベースで整いきってない状態で常に走り続けているのは確かですが、一方で完璧な状態っていつまでたってもならないんです。その状況で何ができるかというと、3つあります。

1つは仮説ベースでよいので、相手に伝わる形で書き切ることです。この技術はこう活かせる、こういう可能性が広がる、と一旦書いてみる。そうしないと、いつまで経っても先に進まないし、相手にも伝わらないと思います。

2つ目は、その仮説をクイックに検証することです。ユーザーにヒアリングする、友達に聞くなどでもいいので、実際のカスタマーの声を聞きそれを検証することをどれだけクイックにできるかが大切です。

3つ目は、とはいえ仮説で顧客がこう言っている、だけではやっぱりなかなか対外的に納得されづらいでしょう。そこでどんな小さな案件でもいいから、実際のデータを出すことです。何億という大きなディールである必要は全くありません。小さくても、受託でも、データをとり、その顧客が実際いくら払いどれだけ喜んだか、具体的に見せることが大切です。

スタートアップのCEOを目指す方へ

―ジョインされてから激動の1年間を過ごしてこられたと思います。一番大変だったことを教えてください。

一番大変だったことは、私自身の経験も含めて何もないところからスタートしたことでしょうか。手探りのなか、さらに今年はコロナの影響もあり、試されるような局面ばかりでした。それがもうどんどん起きる。毎週のように変化しかない。短期間で意思決定をしないといけないし、スタートアップの場合、そもそもこのプロダクトやサービスってなんだっけ、どういう顧客に刺さるんだっけ…とゼロから構築していくんですね。それを推進していくための経営の基盤、組織、人、チーム作り、会社の仕組み、どうしたら最大効率だろうか?と。人数も少ない、お金もあるわけではないので、やはりROI(費用対効果)を意識しながら、短い期間でクイックにアクションして、成長に結びつけていかないといけない。プレッシャーがありますね。

―コンサルや製薬会社でのマーケティングでキャリアを積んでこられていますが、その経験は生きていますか。

私自身は、実は製薬会社の経験が今しっかり生きているとは言いがたいんです。もちろん一般的なビジネススキルや、プレゼンテーションができる、パワーポイント資料をコミュニケーションがとれる形で作れる、などのスキルは生きています。しかし現在の会社のフェーズにおいては、製薬とスタートアップは全然違うと言えますね。

製薬会社には明確に薬というプロダクトがあり、処方する医師がいて、受け取る患者がいます。あとはそれをどう効率的、効果的にマーケティングやセールスしていくかノウハウを考えるだけ。結構クリアなんです。また、歴史のある企業、大手の製薬企業には、そこにいたるまでの蓄積がある。人事のシステム、仕組み、計画、戦略、プランニングのプロセス、一定のアラインをとっていくようなステップ、スキームがすでに組まれています。マーケティングの戦略を考えるにしてもツールがあって、それにあてこんでいけばストラテジーが大体一通りできあがる。一方スタートアップには、明確にこれさえ出せば売れるというものがあるわけではない、なんのお膳立てもない。全部自分たちで仕組みやプロセスから考えながら、中身もつくりながら、実行もしながら、走っていくことになるんです。

コンサルの方は、私は在籍期間が短かったので、もっと経験を積んでいたらすごく生きただろうなと感じます。佐藤は直近7年間コンサルにいましたが、コンサルらしいスピード感、問題解決の力、人への接し方、コミュニケーション、実地の経験が活かされていると思います。

―最後に、これから同じ道を志す方へ、スタートアップにおけるCEOという役割の魅力をお聞かせいただければと思います。

CEOとしてのこれからの私の役割はより大きなビジネスを作り上げること、そして今後の事業計画を描くことです。特に海外のマーケットに進出していくための戦略作りをしています。もちろん国内においても、次のフェーズではより的を絞った提案を大学や企業に対して出していく、大型案件を狙った仕掛けを作っていこうとしています。

体感しながら学ぶのは苦しいことも多いですが、突き抜けたときの楽しさは必ずあります。失敗もたくさんありますが、着実に成長につながっている実感、成果が出たときの喜び。全部ひっくるめて楽しく、生きている!って感じがしますよ。

bitBiomeでの仕事を通して、人にはとにかく恵まれてきました。いつも仲間や周りの人に助けてもらいながら、テイクばかりさせてもらっていると感じます。もっとギブしていかないといけませんね。今回のインタビューも、スタートアップに興味のある方に、楽しさや意義、可能性をお伝えし、キャリアに役立つものになればと願っています。

―ありがとうございました。

 

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2020-11-06



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