細胞の糸から多様なビジネスの可能性を紡ぎ出す/株式会社セルファイバ 【3】

【第3回】

会社を作り上げる人探し

―セルファイバの経営を担ってこられたお二人に、経営面での試行錯誤などをおうかがいできればと思います。安達さんは創業当時を振り返っていかがですか。

安達:会社の体制作りのフェーズでは、やはりメンバー集めの部分での課題は大きかったように思います。ビジネスプランを立てられる人がほしくてずっと探していました。業界の動向に詳しく、将来を見据えて戦略を立てて動いていける人。交渉に強いハードネゴシエーター。それから初期は専属の研究員すらいなかったため研究員も必要でした。

初期のうちは特にピッチイベントやミートアップに参加をし、ある程度露出をしていくことが大事だと思います。柳沢と出会えたのもそうしたイベントで紹介してもらったことがきっかけでした。イベントでは、他にも熱意を示してくださった方との出会いがいくつもありました。

―採用についてはいかがでしょうか。

柳沢:採用も難しいですよね。研究ができ、かつ能力が高い人が飛び込んできてくれるかどうか。そういった悩みをスタートアップの経営者同士で相談しあったりすることもあります。採用で成功したアイディアとしては、応募者に、自身の専門領域と重なる部分でいいので細胞培養に関する論文を選んできてもらい、それを自分の言葉で説明をしてもらう、というものがありました。これは結構よかったので、他のスタートアップにも情報共有してみたところやはり好評でしたね。

安達:私もやはり採用は難しい判断を迫られるケースが多かったと思っています。スタートアップベンチャーの規模ですと、メンバーの一人ひとりの重みが大きい。ここに至るまで、ミスマッチにより人材が定着しなかったケースもあり、たくさんのことを学ばせていただきました。

採用の際は、会社との相性に加えて熱意を重視しています。性格はいろいろな人が居てよいと思いますが、何か成し遂げたいことがあり、それをこの会社を通じて実現したいという思いがあるかどうかが重要です。私たちのフェーズの研究開発には予期せぬトラブルもつきものですが、そのような目的意識がある人は、課題に直面してもモチベーションを保って取り組んでいけると考えています。

アカデミア発ベンチャーならではの課題

―大学発ベンチャーならではの課題もあったかと思います。どう振り返られますか。

柳沢:弊社の場合、技術部分のポテンシャルや魅力が大きいだけに、分野の絞り込みのコミュニケーションに時間がかかったと思っています。「こういう薬を作ろう!」というわかりやすいミッションであれば大きくぶれることはないんでしょうが。もちろん全てのポテンシャルを評価して、うまくパラレルに事業化していくことができればそれに越したことはないですし、細胞ファイバはそれができる技術であることは確かなんですが、その器用さが私にはなかった。自分のレベルや経験の少なさがどうしてもボトルネックになってしまいました。

同じミッションを共有し、各々が考えて動いてくれるというのは理想だと思いますが、それぞれ利害や想いがあって当たり前。その中でどうしたらチームのまとまりが作れるのか、これは先輩経営者の経験にもっと学びたいですね。あとは、事業を進めるという意味で同じ道を通ってきた人。例えば、細胞の製品を世に出した人が一人でもチームにいれば、それは格段に速く進むし、成果もあげられるのではないかと思います。

―安達さんはいかがですか。

安達:柳沢が触れているように、マーケットを定めることと量産化という大きな課題に加えて、製品の品質保証の部分が特に調べづらかったですね。品質保証や量産の面で予算を確保する手段がアカデミアの内部には少ないことを感じています。新しいことを生み出すための資金は科研費など選択肢がありますが、産業化するためのサポートは不足しています。だからといって先に会社を興すと、産業化までの道筋をクリアしてから会社を興すべきだと言われてしまう。最近ではそこをつなぐ起業支援やプログラムもありますので、ぜひ調べて挑戦していただきたいですね。

研究者がスタートアップベンチャーを興すために

―安達さんも柳沢さんも、研究者から経営者になられました。研究者の立場から起業を見据えている方に向けて、アドバイスやメッセージをいただければと思います。

安達:やはり分野や対象を絞ってから会社を立ち上げる方が、あとあと経営の面、資金の面でも余裕が生まれると思います。例えばJSTのSTARTなどは、最初のコンタクトとしてはとても良いのかなと思いますね。

他にも早いうちに計画的に調べておいた方がよいのは、知財に関する知識と助成金についてです。知財は、後々顧問についてもらうにしても、自分である程度理解していないと、不利な契約締結をしてしまいかねません。弊社の場合は、東京大学とのライセンス交渉がありましたが、かなりタフな内容で、時間もかかりました。

また助成金については、創業前から使えるものもあれば、創業して設備投資のときに使いやすいものもあります。助成金はそれぞれくせがありますので、適切な用途で上手に利用されるとよいと思います。報告作成に思いのほか手間がかかったり、後払いだったりと、助成を受けたばかりにかえって大変になることもある反面、とても使い勝手がよいものもあります。実際に使った人の情報が少ないので、そういう声を共有できる場があるといいのですが。

―安達さんは立ち上げ期の本当に大変な期間を経験されたと思います。モチベーションはどのようにして維持されたのでしょう。

安達:私は修士までしか出ていませんが、大学で働いていた期間があったので、自分が関わっていた細胞ファイバの技術が世に広まっていくのを見たい、大学で生まれた先端技術を広めたいという気持ちで続けてこられました。アカデミア発の技術が実産業で使われていくようになるのはなかなか経験できないこと。産業応用に向けて、これからも挑戦していきたいと思います。

―柳沢さんも、マーケットなどの課題がある状態で経営チームに飛び込み、ここまで事業を推進してこられました。気づきやアドバイスをいただければと思います。

柳沢:私は、経営者として事業をすることと研究には共通点が多いと思っています。研究のご経験がある方はわかると思いますが、研究がうまく進まないとき、漫然と頭で考えているだけ、論文を読んでいるだけでは突破口は開けませんし、掘り下げ方が少ないと次の手が見つかりません。手を動かしてウェットな実験を繰り返し、目の前の事実と向き合うこと。その事象を見て、何か特別なことがないか、なぜそうなっているか、いろんな角度で情報を拾うこと。すると見えてくるものがあり、そこから研究活動も動いていくという感覚があると思います。その感覚と、事業を広げていくとき、インターネットにある情報や文献のレベルで留まるのではなく、マーケットがちゃんとあるか、戦えるレベルに行けるのかを自分で実際に調べ見極める活動は似ているのです。研究ができる人は自分で自分の可能性を狭めないでほしい。思い返せば、研究だって初めはみな素人です。それがいつしか、英語で査読つきの論文を書けるところまで成長するのですから。私も手探りで進んできました。失敗も含めて私の体験が、これから同じ道を歩く方を少しでも勇気づけることにつながればと思います。

―ありがとうございました。


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2020-09-04



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