シングルセルゲノム解析で、未知なる微生物の可能性を解き放つ/bitBiome株式会社 【2】

―藤岡さんは2019年にジョインされたと伺っています。その経緯を教えてください。

藤岡:bitBiomeのことを知ったのは2018年12月、きっかけはUTECの宇佐美さんから紹介をされたことです。彼は大学時代、薬学部の同級生でもあって、私がコンサルに進んだことは知っていたと思いますが、具体的な仕事内容までは知らず、単にキャリアオポチュニティーとして声をかけてくれました。ところがそのとき私がMSDのマーケティング担当としてやっていたことというのが、オンコロジー領域のバイオマーカーや診断薬についてです。特にコンパニオン診断の普及をメインロールとしていたので、バイオマーカーとしての腸内細菌には注目をしていました。そこがちょうどbitBiomeの事業分野と重なる部分だったんですね。そのような偶然からbitBiomeのミーティングに参加するようになり、2018年8月にジョインしました。

―参画して最初に取り組んだことは何だったのでしょうか。

bitBiomeの技術が、どのようなところでビジネス機会があるのか、明確にできていない状況でした。そのため、これまでにしてきたビジネス活動で繋がっていた顧客の案件のリードを広げていったり、イベントに出て会社や技術の認知度をあげたり、企業とのタッチポイントの幅を広げたり、といったマーケティング活動をしていました。チームや組織のベースを作ったうえで、資金調達に向けた投資家回りを初める準備もしましたね。

マーケットの絞り込みについては、一つには今後の市場性やアンメットニーズのような仮説ベースで定めていきました。医薬品の領域であればがんと腸内細菌が一つのコアになる。農業でも微生物資材、バイオスティミュラントといった広がりがある。あるいは、化粧品の領域では皮膚の常在菌に着目した化粧品開発など。

もう一方は仮説ではなく顧客から1つ1つのニーズをヒアリングし、どこに刺さるか、技術が貢献できるかをリサーチしていきました。その過程で仮説からでは見切れなかったニーズも見えてきた面があります。

 ―その当時と、実際に今ビジネスを動かす中では、事業戦略は変化していますか?

ある程度当初の予定通りに来ていますが、事業の伸びや変革という意味では、今年に入り、取締役COOの佐藤公彦が来てから大きく変わりました。「微生物のシングルセルゲノム解析」で何が実現できるのか、どういう可能性が広がるのか、佐藤を中心にしてヒアリングや議論を重ね、4つのアプリケーションにクリスタライズ(明確化)したのです。

1つ目はトレジャーハンティング、つまり未知の菌を同定していくという宝探しです。

2つ目はバイオマーカーです。株レベルで菌を見ることで、どの菌が生命現象や土壌に影響しているのか、ということを見つけ出す作業です。

3つ目はトレーサビリティです。例えばお母さんから子どもに腸内細菌が伝播するという現象がありますが、それを実際に株レベルで見れることで、菌の同一性を担保できるのです。

4つ目はクオリティ・アショアランス。主に微生物の発酵や製造をしている現場で、変異や異物混入を探知し、品質管理に役立てるというものです。

 これら4つの具体的なアプリケーション、パッケージを顧客に提示できるように整理し明確化したことで、提案力が強化され、一挙に案件化の確率が高まったところです。

 オポチュニティーロス(機会損失)しない戦略をもつ

―4つのアプリケーションを明確化する前は、同じビズデブ活動をしていても、何か違和感のようなものを感じておられたのでしょうか?このあたり、多くのベンチャーが通る道だと思いますので、ぜひ教えていただければと思います。

bitBiomeは「シングルセルゲノム解析」という世界初のプラットフォーム技術から始まりました。技術はすごい。ただそこから何ができるのかというのが、自分たちでさえクリアにしきれていなかった。何か言えるだけのデータや共同研究の成果があったわけでもなかった。そこのもやもや感ですよね。

これは創業を短期間で進めてしまったことにも原因があると思っています。本来であればもう少し研究資金を確保しながら共同研究でエビデンスを出し、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)をもっと研ぎ澄ましてから創業すべきなのですが、bitBiomeは先に創業してからメンバーを集め、組織体として成長させていくという手順でした。ある意味ショートカットでしたが、もやもやとした違和感の時期が生まれてしまったのだと思います。

―明確化によって、bitBiomeでできることの提案を先にしてクライアントの潜在的なニーズを引き出すことができるようになったのですね。

そうです。もちろんクライアントから実際にニーズを聞き出すことも大切ですが、クライアントの方でもそもそも研究テーマやニーズが明快ではないパターンもあります。こちらから具体的なパッケージで、こういうことが出来ます、こういう利用事例があります、と提示することで、それが元となって議論が進み、それならこれもできないだろうか、という新たな気づきを得るなど、提案型のビズデブ(事業開発)ができるようになったというのが大きな変化だと思います。

―新しい技術だからこそ、クライアントの中でもニーズとして意識されていないことがある、と。

既存のマーケットは、当然既存の技術をベースに形成されています。反対に新しい技術はこれからマーケットを作っていくものです。そこで例えば、ショットガン分析を10サンプルやりましょう。そのなかに1サンプルだけシングルセルゲノム解析もやってみましょう。という風にご提案をしています。

するとクライアントは、これによって世界初の技術で、世界初のシングルセルゲノムのデータを手にすることができるわけです。そうするともっと先を深堀りして見ていきたいな、という声が必ず出てくる。これによって、共同研究や大規模なスタディのステップに非常に進みやすくなった、というのはありますね。

メタゲノムの研究やマイクロバイオーム研究を最前線でやっているアカデミアの人にとっては、シングルセル解析が可能ならそれはすごいこと、あれもこれもできる、と話が進みます。このような限られたクライアントに対しては明確なニーズがありますが、ビズデブ活動では必ずしもそれだけではありません。ニーズを顕在化させるために、まだ見たことのないデータとは具体的に何か、新しいデータが手に入ることでクライアントのビジネスにどのようなインパクトがあるのか、実際にクライアントが持っているサンプルで実感なり実証することが大事だと思っています。

―場合によってはシングルセルゲノム解析以外の手法も併せて提案をされるようになったと伺いました。

はい。こちらも佐藤が来てから、実際の交渉の進め方として変更をした部分です。新技術である「シングルセルゲノム解析」ばかりを提案していると、クライアントからはそれ専門の会社なんだなと思われることが多かったんです。すると、まず既存の手法で解析をしたうえで、何かタイミングが来ればまたお声がけしますね、となってしまう。これを取りこぼしたくない、というのが私たちの課題でした。

私たちは確かに「シングルセルゲノム解析」を提供したいと思っていますが、既存技術であるメタゲノム解析、16s、ショットガンなどの手法も、もちろんわれわれの研究開発チームの専門性を活かして、すべてできるのが強みですから。既存技術と組み合わせたトータルパッケージとすることで、さらなるバリューを発揮していくことができるようになりました。

 今後提供していくソリューション

―4つのアプリケーションによって、今後具体的にどのような分野でソリューションやインパクトを出していかれるのでしょうか。

それぞれのアプリケーションごとに、異なる分野でインパクトを出せると思っています。まず「トレジャーハンティング」は、やはり医薬品や農業分野でしょうか。微生物自体を活用した医薬品が承認間近まで来ていたり、持続的な農業を実現するための肥料や農薬の開発に、新たに見つけ出した微生物そのものや代謝物を活用することが考えられます。これからは微生物の時代とも言われています。持続的な農業を実現するための肥料や農薬の開発に、新たに見つけ出した微生物を活用することが考えられます。実際にそういう商談で進んでいるものも多数あります。

「バイオマーカー」は、土壌で言うと、どの農地だったらよりおいしいいちごが作れるのか、ということを菌レベルで特定できます。また医薬品だと、腸内細菌から新たなバイオマーカーや診断薬を作り出す、といったことができます。

「トレーサビリティ」は医療での活用が多いと思います。例えば、口腔内にいる細菌が、何かのきっかけで肺に移行し肺炎の原因となることがありますが、その菌を特定する、といったことができると思います。

―どのソリューションも非常に魅力的ですが、藤岡さんご自身は、具体的にどの部分を特におもしろいと感じておられますか?

ダイナミックさの面で言えば「トレジャーハンティング」。今まで見つけられなかったものを自らが最前線で見つけ出しにいきたいです。この技術と自分がいなければ生まれない商品が、もし世の中に出たらエキサイティングですよね。

分野では、製薬はもちろんですが、意外と食品が身近なところでわかりやすく、おもしろいと思っています。今店頭に並ぶたくさんのヨーグルトや乳酸菌飲料を見ると、菌の株の違いで差別化して製品化しているものが大変多いことに気づかれるでしょう。これらの発酵食品、例えば納豆やキムチの発酵に役立つ菌、世界でトップティアのワインを作りだす土壌の菌など、株レベルでより効果が期待でき、より強いエビデンスで消費者を納得させられるものをぜひ見つけたいと、夢が広がります。

―これからbitBiomeで事業開発に携わることの魅力をお聞かせください。

bitBiomeの世界初の技術でもって、さまざまな企業、アカデミアの最先端の人たちとプロダクトを一緒に作り出していけることが一番の醍醐味でしょう。仮説ベースで走り抜けてきましたが、これからはより具体的な話につなげて、コラボレーションを進めていくステージに入っていきたいと思います。


第3回へ続く


2020-11-05



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