革新的なエクソソーム抽出デバイスで、高精度の疾患バイオマーカーを世界へ/Craif株式会社 【3】

名古屋大学発ベンチャーとして日本が誇る素材力を用いて尿からエクソソームを捕捉し、AI(人工知能)を組み合わせることで、エクソソームバイオマーカー解析プラットフォームを構築。痛みのない高精度ながん早期発見、および他疾患への応用を目指すCraif株式会社。今回のインタビューは、CTOの市川さんとCOOの水沼さんに、スタートアップのCxOとしてのミッションや、会社のカルチャーづくりで意識されたことについてお話いただきました。


【プロフィール】

市川 裕樹

最高技術責任者(CTO)

東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号取得。ケミカルバイオロジーを専攻し研究に携わる一方、米国のNPOにて開発途上国への医療テクノロジー導入も支援。2013年7月にバイエル薬品に入社。MR、全社プロジェクトのPMO、マーケティングと経営企画のマネジャーに従事。2019年1月 同社を退職後、Craif株式会社に参画。

水沼 未雅

最高執行責任者(COO)

京都大学薬学部卒業後、東京大学大学院 薬学系研究科にて博士号(薬学)取得。2013年-2014年、アストラゼネカ株式会社のメディカルアフェアーズ部門にて、新製品の上市準備、メディカル戦略策定に従事。2014年-2017年、マッキンゼー&カンパニーにて医薬品・医療機器分野の新製品戦略や新規事業戦略策定、組織改革支援等に従事。その後、2017年にデジタルヘルス分野のスタートアップを創業、CEOとしてチャットボットを使用した医薬品のオンラインカウンセリングサービスを立ち上げた。2019年10月にCraif株式会社に参画。


【第3回】

技術に魅力を感じて、Craifへ参画

――第3回目は、現CTOの市川さん(写真右)、COOの水沼さん(写真左)にお話を伺います。まず市川さんは、サイエンスに詳しい人材を必要としていた小野瀨さんから説得されて入社されたそうですね。

市川:前職の製薬企業から別の業界へ転職が決まっていたのですが、入社する前にスタートアップを手伝ってみたいと思い、ANRIの宮崎さんにスタートアップを複数紹介してもらいその中の1社がCraifでした。当時はチームもまだできていない段階で、医療業界での経験があるメンバーもおらず、自分が入るのと入らないのとでは今後の事業展開が変わりそうだと感じていました。そのような状況で小野瀨からも強く説得されて…。しつこい人だなと思っていました(笑)。博士課程で研究していた時から、研究成果を世に送り出したいと考えていたし、Craifの技術はすごく面白く大きなビジネスに出来る可能性も感じて。一方、転職する予定だった会社は大手企業。両者を比べたときに、Craifの方が夢中になってやりがいをもって取り組めるかなと思ったんです。スピード感をもって、どんどん新しいことに挑戦できるスタートアップは自分にとっては楽しく、向いているのではないかと思いました。

――水沼さんはいかがでしょうか?

水沼:私は、2019年の3月頃に市川から声をかけられたのがきっかけです。市川と私は元々大学院の同級生。久しぶりに会ったらとても忙しそうで、「サイエンス」と「ビジネス」の両方がわかる「スタートアップ向き」の人材を探していて、最初は「そういう人一緒に探してくれないか?」ってトーンでお願いされまして。二人でいろいろな人を思い浮かべて考えましたが、あの人も違う、この人も違う、となかなか結論が出ず、結局その条件に合うのは私なのではないか?ということになりまして…。ちょうどCraifが資金調達に向けて動き出した時期で、事業計画策定に関するアドバイスや資料作成を手伝っているうちに、そのまま引き込まれてしまい、2019年10月に正式にCOOに就任した、という経緯です。

――お二人とも前職でも抜群のキャリアを築いてこられているわけですが、思い切った決断をされましたね。

市川:博士課程に在学していた頃から研究シーズを世に送り出す仕事がしたいと考えていたことに加え、Craifの技術に魅力とビジネスとしてのポテンシャルを感じた部分が大きかったと思います。

水沼:私は製薬会社のあとにコンサルティング、そしてオンライン薬局の起業、と紆余曲折を経ていますが、転職のきっかけはいつも魅力的な友人や知人からのお誘いです。コンサルティングファームにいた時代はとても楽しかったのですが、シリアルアントレプレナーのOBの方とオンライン薬局のポテンシャルについて話していて盛り上がった時に、この人と一緒に仕事をしたいなと思って起業。今回、市川からCraifの話を聞いた時も、その技術おもしろそう!と感じて。私は、最先端の科学のワクワク感に弱いようです。製薬会社時代から、自分の担当しているプロダクトについての新しい論文が出るとデータに感動して涙しながら読むくらいでしたので(笑)。

――実際にスタートアップのCxOとなって、これまでの仕事やロールとの違いなどはありますか。

市川:最初は役職等に関係なく、とにかくなんでもやるという状態でした。水沼に入ってもらってからは、比較的R&Dの方に集中できていますが、正直なところ、業務内容は違っても仕事への取り組み方は前職とそこまで大きな違いは感じていません。アーリーフェーズのスタートアップゆえのコントロールが効かない面があることは感じますが、達成しなければならないことを明確にして、目の前の課題を理解して一つずつ進めていく過程は、これまでとほとんど同じだと思っています。

――とはいえ、疾患領域や、プロダクト、全く経験のないロールも多いと思います。どのようにキャッチアップされているのでしょうか?

水沼:私はがんというのは初めての領域でした。専門知識を深めるという点では、Ph.D.をとる過程で、ある分野をどう習熟していくかの訓練を積んでいますから、新しい分野でもキャッチアップすることは苦にはなりませんでした。コンサルタント時代から幅広くどんなことでも即時にキャッチアップして対応しなければいけない環境に身を置いていたので、スタートアップでもその経験が生きている気がします。例えば、知らないことを知っている人に聞くのはコンサルタント時代の基本動作。クライアントや外部のエキスパートに話を聞きながら物事を進めてきたのと全く同じ感覚で、今もいろいろな人のところにふらっとお話を聞きに行ったり、電話させていただいたりしています。知らないことであっても自分が出来る限りのスピードで責任をもってキャッチアップするという姿勢が必要なのかなと思います。

市川:何かに習熟する時に、パターンがあると思います。PhDを取るにしても、具体的な知識を身につけながらその分野の専門知識を深めていくというパターンが1つ。もう一つは新しい課題にあった時に、イシューを対応可能な粒度に分解して一般化しながら幅広い分野に習熟していくようなパターン。私はPhDを取得した後、前職ではマーケティングや経営企画を担当して、研究から5年離れていました。現在Craifの研究の中で、イシューの分解などビジネススキルを取り入れていますが、とても良い成果が上がっていると思います。私たち2人は、幅広い視点から、習熟のプロセスや仕組みを捉える方が得意なタイプかもしれません。一方で知識やスキルをとがらせる人もスタートアップにはもちろん必要です。これからスタートアップのCxOに挑戦される方は、求められているロールに応じて、専門知識を深めるのか、課題解決の手法を深めるのか、見極めていくとよいですね。

会社のカルチャーを作り込んで、会社の成長スピードを上げる

――CxOとしてミッションを進める中で、事前に分かっていれば良かったなと思うことはありますか?

水沼:会社の思想や規範を言語化すること、会社としての行動指針を早い段階で決めることの重要性ですね。私自身、実はこういうウェットなことに当初抵抗感があったのですが、今になってみると作って本当によかったと思っています。一人ひとりがプロフェッショナルとしてどう動くかが明快になり、チームの一体感が増し、コミュニケーションが楽になり、会社全体の成長が加速しました。また採用においても、時間をかけて何度も面接をし、求めているポジションに本当にフィットのある人を採用できるようになりました。

市川:どうしてもメンバーが本当に足りない時は、誰でもいいから入って助けてほしいという気持ちになりがちです。

水沼:そこはじっと耐えて(笑)。カルチャーを言語化する前は、フィットがある人ない人は、なんとなく分かるのですが、なぜなのかを説明できなかった。今は、このように一人ひとりが動きましょうというのが明確になっているので、そこにフィットする方かどうか明確に分かるようになりました。

――なぜ、そもそも言語化をしようということになったのですか? どのような課題感を感じていたのでしょうか?

水沼:仕事の進め方の方針に関して組織内で乖離が生じてきたんです。例えば、経営陣は一人ひとりがリーダーシップを持って、自分でドライブして物事を前に進めてほしいと思っている。しかし、ある頃からそうした考え方に関して、社内の他のメンバーと認識の齟齬が生まれ出したというか……。常々、「こうあるべき」ということをイメージしながらフィードバックを重ねていたんですが…うまく伝わらず、モヤモヤしていたんです。反対にメンバーからすると、なぜモヤモヤしているのか、なぜそんなことで注意されないといけないのかがわからない。なんで自分には当たり前のことが、他の人には当たり前じゃないんだろう、というギャップみたいなものを感じていた時に、経営陣がモヤモヤしていることを言語化しないといけないという話になったんです。そこで、「Craifのメンバーはかくあるべき」というようなテーマで、社内全体でブレストをしました。合宿もしましたね。そして、出てきた意見をそぎ落として整理したものが、今の行動指針です。

――これからスタートアップを立ち上げる方にとってこれは非常に参考になる話だと思います。Craifのカルチャー、行動指針を具体的に教えてください。

水沼:例えばBe a Driverというものがあります。自らが運転席に座る、つまり指示待ちではなく、リーダーシップをもって自分から動き、人を巻き込んで仕事を進めていく姿勢です。他に、Move Fast。無駄なことはせず、最短距離を考えながら、初動も含めてスピーディーに動くこと。Focus on Goalsは目的を常に見失わないこと。このような感じです。

――例えばMove Fastは、どのくらいだと早い、あるいは遅い、となるのでしょうか?

市川:例えば会議では「検討します」ではなく、「次こうします」まで決めたいですね。他にも、粗々でも進捗をもってくる、すぐ決められることを宿題にしない、などがMove Fastです。実際にいつまでなら早いかではなく、動き方や考え方の問題だと思います。これにつながる行動指針としてBe Openもあります。研究者は、何か不可解なデータが出たとき、それを最後まで自分で突き詰めてから紹介したいようなところもある。そうではなく、違和感があればすぐに共有することです。こうしたことで、チームとしての研究プロセスを加速させることができます。

――すごく具体的でスタートアップらしい動き方でもあると思うんですが、実際のところ最初から慣れている人ばかりではないでしょうね。

水沼:そうですね、特にR&Dではそうした動き方に慣れている人は少ないかもしれません。その意味では、例えば新しいメンバーには、新しい環境に早くフィットするための柔軟性を求めているかもしれません。コンサルティング業界特有のカルチャーのエッセンスも入っているため、一見厳しい要求に見られるかもしれませんが、一度なじんでみれば生産性も高まり、どこに転職しても間違いなくパフォーマンスを発揮できるような基本動作が身につく、そういった内容になっていると思います。

市川:言語化してありますから、お互いに行動指針をベースとしたフィードバックを具体的にすることを徹底しています。社内では逆に、行動指針に沿わず具体的に解決できないフィードバックは禁止としているほどです。

――チームメンバーとのコミュニケーションで、工夫をされていることがあれば教えてください。

水沼:今年は新型コロナウイルスの流行など、外部環境が激しく移り変わる難しい状況です。そのなかでは、クイックに最善の意思決定を重ねていきつつも、後から振り返って正しくなかったなと分かれば、会社としてドライに方向転換していかざるをえません。そんな時、チームメンバーは「そうじゃなかったよね?」と当然驚きますが、その際前回の決定の背景と現在の状況の違い、その上での意思決定の理由をきちんとみんなに説明することが大切だと感じています。なぜ経営陣がこの判断をしているのかわからないとメンバーから指摘されたこともあったので。みんな忙しくしているなかで、経営陣の悩みのプロセスを共有することを遠慮していたのですが、そういうウェットなコミュニケーションも無駄ではないんだなと学んだ部分ですね。

また、現場が悩みをかかえているのに対して経営陣が気づくのが遅れることのないよう、COOとして気をつけています。Craifでは一人ひとりが異なる役割をもってポジションを守っているので、一人として欠けると立ち行きません。生産性を高めるための横の連携については考え続けています。日中はこうしたマネジメントにかなりのマインドシェアを割いており、山積みになった自分の仕事は夜にやるしかないという状況ですね(笑)。

会社の飛躍に向けて、CxOとしてのチャレンジ

――Craifの技術にポテンシャルを感じられて入社し今に至るということですが、御社のこれからの歩みの中でお二人が果たしていく役割についてお伺いできればと思います。まずCraifのポテンシャルはどこにあるとお考えですか。

水沼:学生時代にVCでインターンをしたことがあるのですが、その経験から、プラットフォーム技術を有しているバイオテックのスタートアップは非常に有力であるということを感じていました。そのプラットフォームを活かしながらビジネスを展開することで長期のR&Dの原資とし、プロダクトを世に出していく。だからCraifの技術は話を聞いた当初から、こういう技術を待っていた!という気持ちでした。今まさにそのプラットフォーム技術を事業化して普及していくプロセスにあります。課題や改善したいポイントはたくさんありますが、チャレンジを続けていきたいと思っています。

市川:このようなバイオマーカー探索のプラットフォームのニーズは製薬会社などを中心にすごくあると当初から思っていました。実際にここまでやってみて、思った以上の手応えを感じていますね。とはいえ、Craifのテクノロジーの認知度はまだまだ低いと思っていますので、国内外の製薬会社のアライアンス担当者や研究者など、適切なコミュニティにリーチしていきたいところです。そのためにはデータやサイエンスの部分をしっかりと固め、論文や学会で発表していくことも大切だと思っています。

特に、今後、がんの早期発見のための尿検査に限定をせず、エクソソーム解析プラットフォーム技術を持つCraifとして知っていただけるよう努めたいです。例えばがんや免疫系の疾患、最近は認知症や中枢系の疾患でも、エクソソームがかなり重要だという認識が広まってきていますので、研究の妥当性と臨床でのインパクトの高さの両面からこれまで以上のポテンシャルを見出していければと思います。

――これまでのインタビューを通じて、小野瀨さんや安井さんの、皆さんへの信頼感が非常に高いのを感じました。これからに向けての目標を、最後に一言お願いします。

水沼:個人としてのマネジメントスキルやビジネススキルは発展途上で、自分自身がもっと成長しないといけないと思っています。これからCxOになる方は皆さん通る道だと思いますが、キャリアの途中でいきなり上司がいなくなるんです。それまでは自然に上司に引き上げてもらえていたことも、こうなると自分で自分を引き上げるしかなくなります。メンターを見つけて、ビシバシ叩きのめしてもらいたいですね(笑)。私自身は、チームメンバーの一人ひとりにモチベーションを高めてもらえるようなコミュニケーション、個々の成長を導けるような個別化したアプローチを磨いていきたいと思っています。

市川:私はグローバルな競争で勝ち残るためにR&Dチームを強化していきたいですね。そのためのパートナー探しや共同研究も大きな課題で…想像もできないことがこれから先起きていくんだろうなと…。これこそ飽きることはありませんので、うまくいかないことも含めて楽しみながら進んでいきたいと思います。

水沼:背中を預けられる人たちと一緒に働く楽しさ、会社を育てていける刺激を日々もらっています。海外進出など、本当にこの先は私たちにとって未知の領域が待っています。壁にぶつかることもきっとあるでしょうが、もがきながらも乗り越えていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

 

第4回へ続く


2020-11-27



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