革新的なエクソソーム抽出デバイスで、高精度の疾患バイオマーカーを世界へ/Craif株式会社 【4】

名古屋大学発ベンチャーとして日本が誇る素材力を用いて尿からエクソソームを捕捉し、AI(人工知能)を組み合わせることで、エクソソームバイオマーカー解析プラットフォームを構築。痛みのない高精度ながん早期発見、および他疾患への応用を目指すCraif株式会社。今回のインタビューは、Senior Researcher, Life Science & Lab Managerの髙山さんと、同じくSenior Researcherの津田さんに入社の経緯や、研究者としてベンチャーで働く上で大切にしていることなどについてお話を伺いました。


【プロフィール】

髙山 和也

Senior Researcher, Life Science & Lab Manager

2018年9月 広島大学大学院理学研究科 生物科学専攻 発生生物学研究室 博士後期課程 取得

2019年4月 Icaria株式会社(現Craif株式会社) 参画


津田 佳周

Senior Researcher  

2017年3月 立命館大学 理工学研究科 マイクロ・ナノメカトロニクス研究室にて修士号を取得

2017年4月 - 2019年7月 パナソニック株式会社 業務用ガスヒートポンプエアコン (GHP)の新機種開発に従事

2019年8月 Craif株式会社 参画


【第4回】

バイオ系ベンチャーへの入社という選択

――第4回目は、CraifのR&D部門で、バイオチームを率いる髙山さん(写真左)と、デバイスチームを率いる津田さん(写真右)にお話を伺います。前職を辞めて、Craifに転職することにした経緯を教えてください。

髙山:大学院では発生生物学、遺伝子の働きについての基礎研究に取り組みました。修了後は理科や生物の面白さを若い世代に伝えたいと思い、高校の生物の教員になりました。生徒たちは理科を、教科書で単語を覚えるだけの教科と認識していましたので、自分たちの身体や身近な生命現象にもっと興味をもってもらおうと、暗記を避け実験をたくさん取り入れた授業作りをしていました。しかし、思っていた以上に生徒たちに注げる時間がとれず、一度は離れたもののやはりどうしても研究に戻りたいと思うようになり、転職活動を始めました。

実際に手を動かして研究ができる仕事を探しましたが、大手企業だとある程度分かっている状態からスタートし、決められたテーマに沿って研究を進めることになるだろうと想像していました。しかし、私は新たな遺伝子の機能解明など、未知の分野の追求ができるところを探しており、自分自身でクリエイティブに研究が進められるベンチャーが良さそうだと思っていました。

――津田さんはいかがですか。

津田:大学院時代は微細加工に特化したマイクロ機械工学という分野で、微量な筋組織から遺伝子情報を効率的に抽出するデバイスの開発を行っていました。修了後はパナソニックに就職し、業務用ガスヒートポンプエアコンの機能開発に携わりました。大学時代は専攻が機械工学でありながら、遺伝子を扱っていて、ある意味ハイブリッド領域で面白かったのですが、機械工学と生物学のどちらも専門分野というには中途半端だと感じていました。そこで、大企業のモノづくりを学ぶことで、本来の機械工学の専門性を高めたいと思いメーカーへ就職しました。エアコンの機能開発では、冷暖性や省エネ性などの性能面の改良だけでなく、過酷な環境下でも壊れず安定して性能を発揮できるかどうか試験により品質を担保していく仕事を担当していました。

転職を考えたきっかけは、大企業内での成長は一次関数以上にはできないと感じたことです。勤続年数で順番にしかチャンスが回ってこない状況ではなく、指数関数のように爆発的に成長したいと思ったときに、別の道があるのではないかと思い模索し始めました。とはいえ転職活動当初は迷いがありました。成長速度を上げるために、専門分野外の技術を身につけて仕事の幅を広げるべきか。それとも、本当に興味のある分野をとことん突き詰めるのが良いのか。速度を上げて成長するためにはどうすればいいかと考えたときに、限界からさらにもう一踏ん張りできる環境がいいと考えました。私は筋トレが趣味なのですが、筋肉も成長させるためには一番しんどいところからあと3回やることが重要だと言います。そう考えたときに自分が本当に興味ある分野でなければ、大きな困難に立ち向かったときに乗り越えることができないのではと考えました。さらに、ベンチャー企業では自らの成長が会社の成長に直結する面白さがあるのではと思い、転職活動をする中でCraifを選びました。

――髙山さんが2019年4月、津田さんが7月に入社されていますね。ベンチャーに入ることへの不安感などはありましたか?

髙山:私が入社した時、実はまだ会社に小野瀨と市川しかいなくて(笑)。正直やっていけるかな、と…。いろいろな仕事を経営陣に近いところでできる、という魅力はありましたが、市川も当時はビジネスサイドの業務を抱えており、研究に専念できるのは私一人でした。最初の仕事はラボ作り。機器を揃え、実験できる環境を整えて、実験補助員の方と実験を進めました。ベンチャーってこういうものなのかな、と思っていましたが、普通はこんな経験できませんよね(笑)。企業勤務経験自体なかったので、小野瀨、市川からフォローしてもらいつつ自分なりに試行錯誤しながら進めました。

津田:私は髙山より数か月遅れて入った分、おかげさまでラボはありました。しかし遺伝子解析装置があった程度で、肝心のデバイスは一から作るところからのスタート。製造を外注するか内製するか、いかに安定的に作れるかを考えながら生産体制を整えていきました。

――Craif創業期の、研究開発の基盤を固めていく大変な時期を乗り越えてこられたのですね。やはり研究への興味関心が原動力でしょうか?

髙山:そうですね。そもそも研究自体に興味がないとやっていられないと思うんです。予想した結果に反することは多々ありますが、それでがっかりして研究が続けられなくなってしまってはだめなわけです。たとえ想定に反する結果が出ても、それを踏まえて新たな仮説をたてて突き進めていきたいという気持ちがあってこそできるのかなと思います。

津田:研究者としてもっと成長したいという想いと、自分が開発したり携わったりした技術を世の中に出したいという夢とロマンがあるからではないでしょうか。特にCraifの技術は非常に興味がある分野だし、何より人々にとってとてもインパクトのある技術だから、より携わりたいという思いが強かったです。

研究者として求められる姿勢

――研究職のお二人は、ベンチャー独特の大変さや、ベンチャーで働くなら、どういう姿勢が大切と感じておられるでしょうか?

津田:ベンチャーでは基準を一から作らないといけないことでしょうか。開発の生産体制において、大企業は経験則的に品質の管理項目をノウハウとしてもっています。しかしベンチャーはその基準自体をゼロから作らないといけない。そして、ベンチャーは往々にしてゴールが仮説であることが多く、仮説が違うとなればゴール自体が変わる。方向転換にいかに早く自分自身がキャッチアップしていけるかが大事だと思いますし、またそれを研究補助員も含めたチーム内で素早く共有していく必要があります。

髙山:フレキシビリティは求められますね。進めてきた研究にこだわる姿勢は大切ですが、結果を見て、常に計画を変更していかなければなりません。確かにその検討も大事ですが、事業としてのスピード感も大事にしながら、しっかりと優先順位をつけて切り替えができる必要があります。研究者として常にこだわり抜き、完璧を求めてデータを出してきた方にとっては新たな環境かもしれません。しかしどんな方向転換があるにせよ、最終のミッションというのは変わらないのです。Craifのミッションは、「がん早期発見の実現」や「人々が天寿を全うする社会の実現」ですが、それを達成するためにいろいろな手段を試しているにすぎない。私たちはFocus on Goalsという行動指針に沿って、このミッションにトライしたいという気持ちで取り組んでいます。

――お二人はR&Dチームの初期メンバーとして、会社の意思決定に深く関わるような業務もあると思います。気をつけている点はありますか?

津田:会社全体のタイムラインにあわせてデバイスの生産数や品質などを担保する必要がありますが、例えば装置が足りないなど、現場で何かボトルネックが発生しそうな場合は対策をとることですね。いつも会社のオーバービューを踏まえた行動、提案を心がけています。

髙山:私の場合は、データでものを語ることです。早く診断サービスを世に出すためにこういうデータを出さないと、というのではなく、基礎研究の内容も含めた結果を生データから共有して、全体に状況を把握してもらう立場にあると思います。その時に、データの意味や解釈をしっかりと伝えるように心がけています。

研究では必ずしもポジティブなデータばかり出るわけではない、ということは社内全体で共通理解があると思います。Craifの場合、市川、水沼が研究のバックグラウンドをもって経営にあたっているというのは、ビジネスサイドとR&Dチームの信頼関係を形成する上でとても大きいですね。

――御社の場合、バイオロジーだけでなくデバイス、機械学習など、技術だけでも相当な種類がありますから、ビジネスサイドも含めた社内メンバーでこれを共有しきるのは非常に難しいんじゃないかと思うのですが…。

津田:CEOの小野瀨自らがNatureの論文を読んで紹介するなど、ビジネスサイドがメインのメンバーも含めて全員でサイエンティフィックな議論が日常的にかわされるカルチャーを作っています。

髙山:ビジネスサイドのメンバーも研究発表会に積極的に参加したり、生物基礎の勉強会を開いたり。私も新たな分野として機械学習について学んでいます。事業を進める上で必須となる知識は自分の専門でなくても全員がもちましょう、というスタンスです。そのため、研究の進捗状況を踏まえて、会社全体の事業計画やマイルストーンが設定されています。

津田:唯一、安井先生だけは3つの技術すべてに精通していて、総合的な判断ができるんです。私のバイオロジーの知識が欠けている部分へのアドバイスもよくいただいています。本当にすごいですよ。

髙山:最初は恐れ多くてなかなか話しかけられなかったのですが、小野瀨から安井先生ともっとコミュニケーションをとった方が良いと言われて。先生もそれを受け入れてくださっていて、今ではわからないことがあれば質問をしたり、フランクに他愛もない話もしたりできるようになりました。この点は他のベンチャーの先生方との距離感とは少し違うかなと思います。

やりがいとこれからの目標

――これからベンチャーに就職や転職を考えている方に向けて、Craifの主力メンバーとしてやりがいを感じたポイントを教えてください。

津田:会社のカルチャー形成に関わり、成長曲線を見て取れたこと。またデバイスの実用化に向けて評価基準を作り再現性を高める作業、生産工程に関わるパートナー選定や対外的な打ち合わせなど、すべて一から携われたというところに面白みがありました。日々研究に取り組んでいる目の前の技術を世の中に出せば、その時点でその技術を一番知っているのは自分ということになるので、成長意欲も駆り立てられますね。チームで一つの目標に立ち向かい、結果を分かち合うというのもベンチャーならではのやりがいだと思います。

髙山:今出ているデータはデバイスを所有するCraifでしかとれないものばかりです。そのようなデータが毎日のように出て研究が進んでいく、さらにそれに触れて解釈できる最初の一人が自分だという状況は興奮しますよね。サイエンスに対する興味が強く、研究が大好きという方は必ずやりがいを感じられると思います。

「大学に残るか、大企業に入る以外に研究はできない」と思って研究の世界から離れる人も多く見てきましたが、研究の場はベンチャーを始めいろいろなところにあるということをお伝えできたらと思います。また、いわゆる「研究」だけでなく、ビジネスサイドと議論しながら事業戦略への関与、メンバーの採用やマネジメント、予算配分、対外的なコミュニケーションなど、まさに一人ひとりが事業部を代表する立場で業務を進めることができます。様々なことにチャレンジしたい方、ベンチャーにぜひ挑戦してみるとよいのではないでしょうか。

――最後にお二人の目標をお聞かせください。

津田:まずはサービスを世の中に出していくため、十分なデバイスを供給できる体制に持っていきたいと思います。メイド・イン・ジャパンの名に恥じないような信頼性の高いデバイスを作り、それによってがん早期発見を普遍的なものにしていけたらと思います。

髙山:私も、いち早くサービスを展開させるために、バイオロジーの観点からデータを揃えていくことですね。研究者としてはエクソソームなど未知の部分について生物学的な意義を明らかにしていきたいと思います。

――ありがとうございました。


Craif株式会社の技術ストーリーはこちら


2020-11-28



登場人物

編集・ライティング

user_name
upto4株式会社
We support deep tech startups!